がんばってかっこよく言うと 落ちていく記憶の覚え書きとか…… ついでにホントのこと言うと八割が嘘のブログです
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むかしの(2)
■ 1.

     小さなベンチとちょっとした遊具のある、どこにでもあ
     るような小さな公園。
     まだ昼間だというのに子供の姿は見えず、ただ一人、青
     年がベンチに座っている。
     青年は何をするでもなく、ただただやさしげに空をなが
     めている。
     そこに一人の少女が宮沢賢治の『雨ニモ負ケズ】を呟き
     ながら登場

あすか「・・・東ニ病気ノ子供アレバ/行ッテ看病シテヤリ/西ニ
   ツカレタ母アレバ/行ッテソノ稲ノ束ヲ負イ/南ニ死ニソウ
   ナ人アレバ/行ッテコワガラナクテモイイトイイ/北ニケン
   カヤソショウガアレバ/ツマラナイカラヤメロトイイ/ヒデ
   リノトキハナミダヲナガシ/サムサノナツハオロオロアルキ
   /ミンナニデクノボートヨバレ/ホメラレモセズ/クニモサ
   レズ/ソウイウモノニ/私ハナリタイ」
けんじ「沢田研二ですね」
あすか「え?」
けんじ「いいなぁ、私好きなんですよ。『ホメラレモセズ/クニモ
   サレズ」。『ホメラレモセズ』っていうのはちょっとわから
   ないですけど、『クニモサレズ』っていいなぁって・・・。
   覚えてるんですか全部?」
あすか「え、ええ・・・。あの、沢田研二じゃなくて宮沢賢治じゃ
   ないですか」
けんじ「え?私、宮沢賢治って言いませんでした?・・・でも、す
   ごいなぁ。自慢じゃないですけど、暗記全然だめですね」
あすか「自慢じゃないですね」
けんじ「・・・。だからね、詩の暗唱とかできる人見ると、ついど
   うしてできるのか聞きたくなっちゃうんですよ。どうしてで
   きるんですか?」
あすか「たいしたことありませんよ。学校で試験があるって思うん
   です。そうしたら、悪かったら点もらえないって、絶対覚え
   ます」
けんじ「そんなもんですか」
あすか「多分。私、学校で試験があったから覚えましたよ」
けんじ「へぇ。でも素敵ですね。詩の暗唱だなんて」
あすか「受験で使うかもしれないから覚えろって」
けんじ「そうですか」

     そこへえみこ登場

えみこ「けんじ先生!」
けんじ「あれ、えみこさん」
えみこ「先生聞いて、お母さんとけんかしてきたの」
けんじ「またですか。どうしたんです」
えみこ「テスト」
けんじ「テスト?また見つかっちゃったんですか。こないだ「隠し
   ておいたの見つかってけんかしてきた」って来たばっかりじ
   ゃないですか」
えみこ「ううん、見つかったんじゃないの。けんじ先生に隠すなら
   見つからないように隠しなさい、じゃなければ正直に見せち
   ゃいなさいって言われたから、ちゃんと」
けんじ「見つからないように隠したんですか?」
えみこ「ちがいます。ちゃんと見せたの。そしたら」
けんじ「怒られた」
えみこ「はい。なんでこんな点数なのって」
けんじ「こんな点数って、どんな点数だったの?」
えみこ「35点」
けんじ「悪くないじゃないですか」
えみこ「でしょ」
けんじ「こないだより上がってるもの」
えみこ「でしょ。こないだから後ろから2番目だったけど、今回は3
   番目」
けんじ「頑張ったんですね」
えみこ「そうなんです。なのに怒ったの。だから私、勉強するのや
   めるんだ」
けんじ「そういわないで。勉強するって楽しいじゃないですか」
あすか「楽しい?」
えみこ「あれ、あすかさん」
けんじ「あれ、知り合いですか」
えみこ「うん。同じクラスだよ」
あすか「勉強楽しいですか」
けんじ「ええ。だっていろんなことがわかるようになるでしょ。新
   しいことを知るって、とても素敵なことじゃないかなぁ。あ
   すかさん……でしたっけ?あすかさんは楽しくないんですか
   ?」
あすか「ええ、あんまり」
けんじ「楽しくないのにやってるんですか?」
あすか「だって必要でしょう」
えみこ「けんじ先生は楽しいの?」
けんじ「私は楽しかったですよ。いつだったかなぁ。本を見てたん
   ですよ。すごくきれいな星の写真があってね。最初私、青い
   ガラスか何かの上に砂と宝石をまいたんじゃないかって思っ
   たんですよ。だけど砂に見えた一つ一つが星で。こんなこん
   なに星ってあるのかって、なんかわくわくして、星について
   いろいろ調べたんですよ。光の速さが一秒間に地球を七回り
   半して、でもそんな速い光でも、一番近い恒星に行くのだっ
   て何年もかかるんだってね。ということは、今見えているこ
   の光は、何年も何十年も、いや、何万年も昔のもあるんだっ
   て。もしも私が十光年くらいここから離れたところに行って、
   そこからこの地球を見ることができたとしますよ。そうした
   ら何が見えると思います?」
えみこ「わかんない」
けんじ「少しは考えてくださいよ。あのね、十年前の私が見えるん
   ですよ。……そういうことがわかるようになるって、素敵な
   ことじゃないかなぁ」
あすか「……だから好きなんですか?」
けんじ「ええ」
あすか「でも、そんなの小学生のじゃないですか」
けんじ「小学生のは勉強じゃないんですか」
あすか「勉強だけど、中学高校とはちがいますよ」
けんじ「ちがうんですか」
あすか「……」
えみこ「けんじ先生の話は素敵だけど、やっぱり私勉強するのやめ
   る」
けんじ「やっぱりつまんないですか」
えみこ「つまんなくないけどつまんない」
けんじ「え?」
えみこ「やるのはおもしろいの。だけどね、テストやるでしょ。少
   しあがったでしょ。すごくうれしかったんだ、やっぱり。で
   もお母さんは頑張れって言う。もっともっと、って。多分、
   もし次もあがったとしても、もっともっとって。きりがない
   んじゃないかなって。それがつまんない」
けんじ「そうなんですか」
えみこ「そうなの。それに一番があるってことは、二番があって三
   番があって、それからずーっとあって、ビリがあるってこと
   だしね」
あすか「あたりまえじゃない」
えみこ「当たり前だけどね。そんなこと考えたら、なんで自殺する
   人がいるかわかるような気がして。もしかしたら素敵なこと
   なんじゃないかなって……」
あすか「自殺なんて最低だよ」
えみこ「え?」
あすか「ばかみたい。それくらいで」
えみこ「それくらいってなによ」
けんじ「まあまあ。それはそれぞれの考え方だから。でもえみこさ
   ん、実際にやらないで下さいね。私、お葬式行ってあげませ
   んから、そんなことしたら」
えみこ「大丈夫だって。そっか、あすかさんは悩みないんだ。いい
   ね、そういう人って」
あすか「……」

     居心地の悪い沈黙
     そこへ、なにやらガラクタのようなものを持ってゆうや
     登場

けんじ「ゆうや君」
ゆうや「あ、けんじ先生」
けんじ「飛行機ですか」
ゆうや「そうです」
あすか「飛行機?」
えみこ「飛行機って……そのガラクタが?」
ゆうや「ガラクタじゃないよ。ほら、これが翼だ」

     取り出したものは、確かに見ようと思えば翼に見えない
     こともない。
     まるで晴れた日の空のような色をしたそれは、どう贔屓
     目に見ても空など飛べそうにない。

えみこ「これ翼?」
あすか「無理だよこんなのじゃ」
ゆうや「無理じゃないよ」
あすか「絶対、無理」
ゆうや「そんなこと言って、お前やったことあるのか」
あすか「ないけどさ」
ゆうや「やってみないとわからないじゃないか」
えみこ「でもお前みたいな奴にできるわけないじゃん」
ゆうや「なんだよ。いつもいつもお前人のことばかにしてさぁ。僕
   ばかなんかじゃないんだぞ」
えみこ「じゃ、証明してみなよ」
ゆうや「えーと、な。ある所に、猫が一匹いました。すると、もう
   一匹猫がやってきました。猫は何匹でしょう」
     あすかとえみこ、狐につままれたような顔をしている。
ゆうや「答えは?」
えみこ「えーっ。これ問題?」
ゆうや「そうだよ」
えみこ「あんまりばかにしないでくれる。二匹に決まってるでしょ
   」
ゆうや「ブー、はずれ。答えはね、三通りあるんだ。二匹とも雄だ
   ったとするだろ、そしたら縄張り争いがあるから、どっちか
   が負けるだろ。だから、答えは一匹。それから、一匹が雄で
   もう一匹が雌だったらな、それからそれが春だったりすると
   子供が生まれるんだぞ。かわいいんだぞ。だからな、答えが
   二匹なのは二匹とも雌だったときだけなんだ。
あすか「?」
えみこ「変なの」
ゆうや「解けなかっただろ。僕ばかじゃないんだからな。けんじ先
   生」
けんじ「はい?」
ゆうや「先生もわかんなかった?」
けんじ「んー。なんとなくそうじゃないかなぁとは思いましたけど
   ね。よくわかなんなかったなぁ。ねえ、ゆうや君。この飛行
   機あとどのくらいで完成しますか」
ゆうや「うーん。もう少しだよ」
けんじ「完成したら見せてくださいね」
ゆうや「うん。飛んでるとこ見せてやるよ。この翼をこう動かして
   走るんだ。そうしたら僕の体がね、こう、ふわっと鳥みたい
   に宙に浮いて、そして空と一緒になるんだ。ほら、この翼青
   いだろ。だから空に僕がぽっかり浮いているみたいになるん
   だ、きっと。じゃ、さようなら。これ作らないと」
けんじ「さようなら。頑張ってください」

     ゆうや退場

えみこ「へーんなの。やっぱ、イエローピーポーにお世話になって
   いるだけあるな」
あすか「イエローピーポーって、あれ?」
えみこ「そう。精神病院のね」
あすか「彼、どこか悪いんですか」
えみこ「『知恵遅れ』なんだって。前おばさんがそう言ってたよ」
あすか「ふーん」
えみこ「……あれっ?」
けんじ「何です?」
えみこ「雨かな。今ぽつっと……」
あすか「あ、雨だ」
けんじ「そのようですね」

     だんだん雨が激しく
     暗転

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