がんばってかっこよく言うと 落ちていく記憶の覚え書きとか…… ついでにホントのこと言うと八割が嘘のブログです
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
むかしの(3)
■ 2.

     次の日
     雨はまだ降り続いている。
     あすかが傘もささずに公園のベンチに一人座っている。
     そばにあすかの傘が転がっている。

あすか「もしもし……もしもーし。……あなた、しあわせですか?
    はい『しあわせ』です。……生きていてもいいのでしょう
   か。私、生きていてもいいのでしょうか……。もう、死んで
   も、いいよ。……こんにちは……。ある日私がたまたま、い
   つも通る道より一本だけずれた道を通りましたら、驚くほど
   違う風景が見えた。たった、一本だけずれた道を通りました
   ら……」
けんじ「何ぼそぼそ言ってるんですか?」
あすか「!」

     いつの間に来ていたのだろう。
     けんじが傘を差して立っている。

けんじ「あーあ、傘もささないで、風邪ひきますよ。よっと(傘を
   拾う)……はい」
あすか「いいんです」
けんじ「え?(ふとあすかの顔に気づいて)泣いて、るん、ですか
   」
あすか「いいえ」
けんじ「そうですか……それならいいんです」

     沈黙

あすか「あの……けんじ先生って学校か何かの先生なんですか?」
けんじ「いいえ」
あすか「じゃあ、どうして先生って呼ばれてるんですか」
けんじ「ああ、前、ゆうや君と初めて会った時、彼が言ったんです
   よ。病院の先生に似てるって。私、カウンセラーの人に似て
   るらしいですね。で、先生って」
あすか「へえ」
けんじ「彼、すごく空を飛ぶことにあこがれてましてね。どうして
   そんなにあこがれてるのか聞いたんです。そしたら、何も無
   いからだよって答えたんです。それから、飛行機についてい
   ろいろ話してくれて」
あすか「うまく飛べるといいですね」
けんじ「そうですね。飛んで欲しいなって思いますね」
あすか「(下を向く。肩が少し震えている)」
けんじ「あすか、さん」
あすか「……私ね、雨の日って好きです。傘ささないで家を出ると、
   息がけに何か言われるから、一応持って、でもすぐ閉じちゃ
   うんです。雨がね、肌に当たって、すぐ流れるんですよ。頭
   と手と足と顔と……」
けんじ「……」
あすか「空、飛んで欲しいですね」
けんじ「あすかさん、大丈夫ですか?」
あすか「?」
けんじ「何だか……いえ、気にしすぎですね」
あすか「自殺でもしそうだ?」
けんじ「!」
あすか「大丈夫です、しません。多分……でも……わからない」
けんじ「……」
あすか「私、自殺否定したでしょ。あれ、考えたことなかったから
   じゃないんですよ。憧れがね、少し私にもあって、だから完
   全に否定したかった。……なんて、嫌な奴です。すごく、嫌
   な奴です、私。思うんです。人が苦しいよって言っているの
   を見て、あんたはそういうふうに『苦しい』って口に出した
   分、楽なんだぞって。悩みなさそうでいいなったって、悩ん
   でる顔してる方が、悩んでる顔をしていない人より、悩んで
   るってわけじゃないんだぞって。……きもちわるいよ。ずー
   っと私のことを見ている何かがいて。ずーっと冷静に見てい
   る何かがいて、それで、その『何か』っていうのは、きっと
   私なんだ。それが『嘘つき』って騒ぐの。私が笑ってても、
   悲しそうな顔してても、本当にそうなのかな、上手く合わせ
   てるんじゃないのって言うの。何が本当で何が嘘なのかわか
   んないんだ。きもちわるい。……学校から帰ってきて、塾行
   くんだ。塾帰る頃って暗くて、冬なんかすごく寒くて、自転
   車に乗ってると、耳がね、すごく痛いんだ。風がびゅんびゅ
   んふきぬけていって、だから、息がね、息が少し荒くなるん
   だ。でね、だんだん、息が荒いのは、向かい風で自転車をこ
   いでいるからなのか、泣きそうだからなのか、よくわからな
   くなってくるんだ。ほら、誰もいないでしょう、まわりに。
   だから……」
けんじ「……」
あすか「なーんちゃって」
けんじ「泣いてるんですか」
あすか「泣いてない。雨だよ、きっと」

     沈黙

けんじ「えーっとね、おまじないがあるんですが」
あすか「え、何の?」
けんじ「いや、何のって言われると困るんですけど……いろいろの、
   です」
あすか「?」
けんじ「ええと、これ二人でやるおまじないなんですけど。二人で
   背中あわせになるんです」
あすか「(不思議そうにしながらもやってみる)」
けんじ「ね」
あすか「ねって、これだけですか?」
けんじ「これだけです」
あすか「背中をあわせるだけ?」
けんじ「ええ」
あすか「コマーシャルにだって、もっとマシなのありますよ。手の
   しわとしわをあわせて幸せって。あと、手の節と節をあわせ
   て不幸せ」
けんじ「でも、これはそういうのじゃないんです。少しやれば、多
   分わかります」

     あすかとけんじは背中をあわせて立っている。
     感じるのはお互いの息づかいと自分の心音だけなのです。

あすか「ああ」
けんじ「ね」
あすか「ええ。なんか……そこにあるっていう感じがする」
けんじ「でしょ」
あすか「なんか、いいですね」
けんじ「でしょ」
あすか「とっても馬鹿みたいなのにね」
けんじ「でしょ……」
あすか「私、もう帰ります。(傘を持ってペコリとお辞儀をする)
   さようなら」
けんじ「あ、あすかさん。これあげます(紙切れを渡す)」
あすか「何ですか?(受け取る)……詩かな」
けんじ「そうです。中学生の文集に載ってたんですけど、昔読んだ
   時、ちょっといいなって思ったんです」
あすか「へぇ」
けんじ「じゃ、風邪ひかないで下さいよ」
     けんじ退場
あすか「(しばらくそれを読んでいる。そして、空を見上げた)」
     雨はまだ降り続いている。

     暗転

続き>
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。