がんばってかっこよく言うと 落ちていく記憶の覚え書きとか…… ついでにホントのこと言うと八割が嘘のブログです
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むかしの(4)
■ 3.

     雨の降った次の日にありがちな、少し暑いくらいの快晴
     である。
     あすかはベンチに座って例の詩を読んでいる。
     そこへ、えみこ登場

えみこ「やっほ。あれ、何読んでるの?」
あすか「詩、読んでるの」
えみこ「『し』というと『詩』かな」
あすか「そだよ」
えみこ「『ポエム』かな」
あすか「そだよ」
えみこ「というと、あれだな。えーと」
あすか「『しあわせなあたし しあわせなあのこ』」
えみこ「そうそう、そういうわけわかんない題の。……えーと、何
   だっけ?」
あすか「『ねえ この世界をつくっている全体の数が 決してかわ
   ることがないのだったら この世のしあわせとふしあわせの
   数も かわらないんだろうか ってあのこは言った』」
えみこ「そうそう、それ。えーと……『多分そうじゃないの って
   あたしは言った それなら 誰かがしあわせ になった分 
   誰かがふしあわえs になるのかな ってあのこは言った 
   多分そうじゃないの ってまた あたしは言った』えーと、
   それから、えーと……」
あすか「『時は五月』」
えみこ「『時は五月 あたたかいひだまりの中 二人 はいっしょ
   に 一人 でいた つかの間の休息 あのことあたしは は
   やりのことばで言ってしまえば いじめられっこ とでも言
   うのだろうか がっこうへいって そしたら ぶたれたこと
   はなかったけど 無視 という意思表示と かげ口 という
   演説で まわりをかこまれていた それなら ねえ私生きて
   いていいんだろうか しばらくあとあのこは言った』」
あすか「『私生きていていいんだろうか あたしはゆっくり小さく
   くりかえしてみた』」
えみこ「『私がしあわせになった分誰かが ふしあわせになるの 
   だったら私 生きていていいんだろうか』……うーん」
あすか「覚えてるねぇ。けんじ先生にもらったの?」
えみこ「うん。そうなんだけど、黒やぎさんに食べられてしまった
   の」
あすか「え?」
えみこ「『白やぎさんからお手紙ついた 黒やぎさんたら読まずに
   食べた 仕方が無いのでお手紙書いた さっきの手紙のご用
   事なあに』」
あすか「ああ」
えみこ「でさ、知ってる?」
あすか「何を?」
えみこ「この歌の題名」
あすか「……!知らない」
えみこ「『ヤギさん郵便』っていうんだって。でさ、知ってる?」
あすか「何を?」
えみこ「けんじ先生の憧れなんだって、これ」
あすか「これって、この歌!?」
えみこ「歌じゃなくてこの詩。なんかね、いじめられっことかいう
   立場の一見かなしいなさけない人たちが、それでも自分が幸
   せのとき誰かが幸せじゃないからどーしようって言ってるの
   がいいんだって。なんかね、パラ、パラ、パラゾールでもな
   くて、パラフィンでもなくて……あ、知ってる?パラフィン
   ってあのゼリーキャンディーのまわりについてる食べられる
   セロファンみたいな奴だよ」
あすか「それってオブラートじゃなかったっけ」
えみこ「えー、じゃ、パラフィンって何だっけ?」
あすか「だからパラフィンっていうのは、こう四角くって薄い……
   いいよ。で、パラ何?」
えみこ「えーと、パラ、パラ……パラドクスだ!」
あすか「パラドクス」
えみこ「うん。えーとねぇ、しあわせだって口にするのは、しあわ
   せじゃないからなんで、だから……あれ?……でもさ、」
あすか「ん?」
えみこ「気持ち悪いよね、こんなの」
あすか「少しね。でもいいな」
えみこ「そう?嘘ついてるみたい」
あすか「これが?」
えみこ「うん。自分より他人の心配するなんてさ」
あすか「でもそういうのってない?」
えみこ「ないよぉ」
あすか「たとえばさ、何人かいる中で自分だけいいことしてて、そ
   ういう時、人に譲ったりしない?」
えみこ「つまり、ケーキが一個だけあって、それを私が食べようと
   して、でもなんか悪くて、あげたりするのでしょ?」
あすか「まあ、そういうのとか」
えみこ「あれはね、人のこと思いやってるからじゃないの。一人で
   食べてると、なんとなく罪悪感みたいなのがあるのね。それ
   なくすためにやるだけだもん」
あすか「そう?」
えみこ「そう。食い物の恨みはおそろしいって言うでしょ」
あすか「……ちょっと違うんじゃない」
えみこ「えー違う?あ、じゃ『情けは人のためならず』だ」
あすか「なんでそうとぶの」
えみこ「だってそうでしょ。だから、ケーキをあげたらめぐりめぐ
   って、もっとすごいものがもらえるかもしれない」
あすか「うーん、そうなのか」
えみこ「でしょ、ね。やっぱり『情けは人のためならず』だ。あの
   さ、昔私これ、情けをかけるとその人のために良くないから
   やめなさいよって意味かと思ってたの」
あすか「……」
えみこ「ま、いいや。でね、『二人は一緒に一人でいた』ってあっ
   たでしょ」
あすか「うん」
えみこ「けんじ先生がね、みんなそうだって言ってた」
あすか「……」
えみこ「へんだよね。二人は二人じゃないか。それともあのイエロ
   ーピーポーがまた何か言ってたのかなぁ」
あすか「ゆうや君がどうかしたの?」
えみこ「何か言ってたのかなって言っただけだよ。どうしたの?」
あすか「うん……。でもやっぱりこの詩いいな」
えみこ「なんだよ急に」
あすか「別に。でも良くない?」
えみこ「良くなんかないよ。あすかはその作者知らないからそう言
   うんだ」
あすか「え?えみちゃん知ってるの?」
えみこ「……」

     沈黙が続くかと思ったその時
     ゆうやが飛行機のまねをしながらやってきた。

ゆうや「ぶーん……只今から着陸態勢にはいります。ガチャッガチ
   ャッ……着陸五秒前、四、三、二、一、着陸」
あすか「……何やってたの?」
ゆうや「練習」
えみこ「練習。何の?」
ゆうや「着陸の」
えみこ「着陸……着陸ってどの着陸だ?」
ゆうや「この着陸」
あすか「あの着陸とかその着陸ってあるのかな……」
ゆうや「飛行機の着陸」
えみこ「えーっ、やっぱりあれ」
あすか「あれのことだろうね、多分」
ゆうや「なんだよ」
あすか「この間の飛行機のこと?」
ゆうや「うん」
えみこ「そうだ、やっぱりそうだ……」
ゆうや「どうだった?」
えみこ「どうだったって?」
ゆうや「今の」
えみこ「……着陸の練習やるより、上手な落ち方研究した方がいい
   んじゃない」
ゆうや「落ち方って、どうして?」
えみこ「危ないでしょ」
ゆうや「落ちなきゃ危なくないよ」
えみこ「だから、落ちなきゃでしょ」
ゆうや「落ちないもん。飛ぶよ」
えみこ「だってさぁ」
ゆうや「飛ぶよ、飛行機だもん」
えみこ「あのさ、飛行機っていうのは、こう本体があって、翼があ
   って、それから尾翼があって、で飛行場だとかにあるのでし
   ょ」
ゆうや「えー、翼があったら飛行機だよ。で、飛んだところが飛行
   場になるんだ」
えみこ「え、飛行場って決まってるんじゃないの。だからそこから
   飛ぶんで……。いいかげんだなぁ」
ゆうや「いいかげんじゃないや。飛ぶときお前には知らせてやらな
   い。すごいんだからな」

     ゆうやはまたぶーんととんでいった。

あすか「ねえ」
えみこ「うん?」
あすか「あんまりさ、ああいうのやめたら」
えみこ「ああいうのって?」
あすか「ああやって馬鹿にするの」
えみこ「馬鹿にしてるわけじゃないよ」
あすか「……だったらさ、飛べないぞって言うのやめたら」
えみこ「なんで?」
あすか「なんでって……だってゆうや君は信じてるんだから」
えみこ「信じてる人には言わないわけ?」
あすか「だって……だって信じて一生懸命やってるのに、なんか、
   悪いじゃない」
えみこ「つまり、やさしくしろって言ってるのかな」
あすか「うーん。まあ、ちょっと違うけど。でも……そうかな」
えみこ「でもやだ」
あすか「どうして」
えみこ「だって、あんなのホントに飛べるわけないじゃん」
あすか「いじわる」
えみこ「あー、いじわるって言ったな」
あすか「言ったよ」
えみこ「事実じゃないか」
あすか「だってさ」
えみこ「じゃあ、あすかは本当に飛べるなんて思ってるの」
あすか「だってさ……」
えみこ「ほら見ろ、信じてないじゃないか」
あすか「だってさ」
えみこ「出来ないことを信じさせてるのなんか、いじわるじゃない
   か」
あすか「だって……」
えみこ「さっきから、『だって』ばっかりだね」
あすか「だって……飛ぶんじゃないかな、もしかして……」
えみこ「えー、ばかみたい。あすか、熱あるんじゃない?」
あすか「ないよぉ」
えみこ「あ、熱い。40度超えてる。手がやけどする」
あすか「ばか」
えみこ「へへへ……」
あすか「もういいよ。(ため息)暑いなぁ」

     暗転

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しあわせなあたし しあわせなあのこ
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